東洋経済 『ブログキャスター』 編集部です。
前回のブログで小松左京について少し触れたのですが、彼ほど博覧強記で、
しかもそれを上手にストーリーテリングすることに成功している作家を、
私は知りません。
はじめて小松左京の著書を読んだときの衝撃は、今でも忘れられません。
学生時代、古本屋に2冊100円で並べられていた 「日本沈没」 の上下巻。
何となく買って、しばらくは本棚に置きっぱなしでした。
どうせ映画 「日本沈没」 の原作でしょ。こんな風に思っていました。
(C) 光文社
それが、読み始めてみたら、自分の先入観がいかに間違っていたか。
映画で沈没したのは日本列島という " モノ " でしたが、
本の中で沈没するのは、単なる " モノ " ではなく、
日本人のアイデンティティの拠り所である日本という領土。
日本人は現存している状態で、国土が消滅すると政治はどうなるか、
経済活動はどうなるか、文化はどうなるか … 。
壮大なシミュレーションが展開されるのです。
日本がなければ、日本円なんて何の価値もない。
日本という領土に頼れない日本人は、自力で見知らぬ外国で生き抜くしかない。
「技術者だったら、自国に移民として受け入れてもいい」 と、
いままで日本が見下していた貧しいアフリカの国の役人が言い切った場面には、
衝撃を受けました。
外国でも1人で生きていける能力を身に着けなければ、
と、肝に銘じたことを覚えています (その割にはいまだに未熟者ですが) 。
カゼのウィルスで世界が滅亡する 「復活の日」 も面白かった。
朝に本を読み始めて、気がついたら夕方だったという体験は初めてでした。
なぞの霧によって東京が他の地域と突然連絡がとれなくなる 「首都消失」 も、
第一級のシミュレーション小説です。なぞの霧というSF的な味付けを排すれば、
地震その他の理由で、一時的に東京の首都機能がマヒする事態は十分ありうる。
そのときに、どの都市に臨時政府を置くのか。国会議員は選挙し直すのか、
天皇家はどうするのかといったことは、確かに考えておく必要があるのです。
(C) ハルキ文庫
シミュレーション小説といえば、堺屋太一の 「油断」 はあまりにも有名です。
実際、堺屋氏はその知見が評価されて経済企画庁長官に就任しましたが、
知見という点では、小松左京のほうが数段上。
台頭する中国、蔓延するサブプライム問題など、世界が混迷を深める中で、
日本の政治家がやっていることは、あまりにも稚拙です。
ここは小松左京に世界経済の行く末について、
ぜひ、シミュレーションしてもらいたいところです。
(No)



後半4分の3の第2部で執筆作の思い出話をいろいろされているのですが、『日本沈没』の章では執筆経緯のほか、本来の全体構想を語っておられます。『復活の日』は実は実存主義小説だったこと、ひるがえって『首都消失』の発想やPF(ポリティカルフィクション)の基本的考え方を述べた章もあります。
世界経済のシミュレーションではありませんが、たいへん参考になりました。すでにご覧でしたら失礼しました。